井の頭恩賜公園のあゆみ|22話 |「江戸名所図会」って どんな本?

『いのきちさん22号 2015年5・6月号』 連載《井の頭恩賜公園のあゆみ 22話》

井の頭のことが載っている江戸時代の書物の中でも、特に有名なのが「江戸名所図会」。
江戸の名所について紐解く人の多くが、今なお参照する資料の筆頭です。
井の頭弁財天と井の頭池については挿絵入りでの掲載です。時代を超えて読み継がれているロングセラーのガイドブック。その発刊の背景をのぞいてみましょう。

「江戸名所図会」って、どんな本?

「江戸名所図会」は全七巻二十冊の大作。江戸市中から近郊に至る広い地域の地理・歴史情報が網羅されています。発行は天保5年(1834)。編纂したのは斎藤幸雄、幸孝、幸成の親子三代。着手から実に四十余年を経ての発刊でした。

解説文と写実的な挿絵で構成される「図会」と呼ばれるスタイルのガイドブックは、安栄9年(1780)に刊行された京都の「都名所図会(みやこめいしょずえ)」に始まると言われます。
斎藤幸雄は、その影響を受けて江戸版を企画したようです。ところが寛政十年に出版許可が出たにもかかわらず幸雄は逝去し、幸孝が引き継いで収録範囲を郊外に広げたもののやはり未刊のまま世を去り、幸成がついに発刊にこぎつけたのでした。

発行当時、幸成は三十歳。代々受け継ぐ神田雉子町の町名主(=町役人)の多忙な公務の傍ら、祖父と父から託された大著を完成させました。
長谷川雪旦の挿絵は、幸孝の時代に描かれたと推測されます。版元は、当時江戸で屈指の須原屋茂兵衛と伊八。「都名所図会」を超える名作を制作しようと、編者と絵師と版元が意気投合してのコラボレーションだったことでしょう。
ちなみに、幸成は斎藤月岑の筆名で「東都歳時記」「武江年表」などの著作の数々も残しています。

「井頭弁財天宮」と「井頭池」が紹介されているのは「江戸名所図会」の四之巻。牟礼村に位置し、池の島に弁天堂があり天台宗の大盛寺が別当であること、そして数々の伝説、樹木の植生についても触れられています。

ちくま学芸文庫でも再版されていたり、いくつも解説書が出版されていたりします。ちょっぴりタイムスリップする気分で、手に取ってみてはいかがですか。

★『江戸名所図会』は、国立国会図書館のデジタルアーカイブで見ることができます。こちらの[11]-34コマ。説明は35コマのページに書かれています。

※『いのきちさん』は株式会社文伸さんが2011年11・12月号から2017年11・12月号まで、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞として発行していたフリーペーパーです。井の頭公園の歴史について合同会社いとへんの安田知代が寄稿した記事を、こちらのブログに掲載しています。

安田 知代

安田 知代合同会社いとへん 共同代表

投稿者の過去記事

長年、フリーの編集者・ライターとして活動後、2012年から仲間とともに合同会社いとへんを運営。著書『井の頭公園*まるごとガイドブック』(2008年ぶんしん出版)、『懐かしの吉祥寺 昭和29・40年』(20011年ぶんしん出版)など。郷土史の小ネタを調べるのが大好き。目下、多摩の山々の歴史を探索中。2015年末に原田病を発症し、ステロイド投薬による免疫力の低い身体と仲良くする方法を模索する日々を過ごしている。

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