ほっとひと息、井の頭散歩|⑥公園と太宰治

月刊『ほっとメーッセージ 2016年3月号』 連載《ほっとひと息、井の頭散歩 EPISODE6》

そろそろ光が春めいてくる季節、みなさんお元気ですか? 今回は、ほっこりと読書をしながら、物語散歩のご案内です。

読んでみませんか?

井の頭公園が舞台の太宰治作品の数々

文豪の太宰治は青森県の出身でしたが、30才から39才で生涯を閉じるまで、三鷹に居を構え、数ある作品に井の頭公園や三鷹の街でのシーンを描きました。

例えば「ヴィヨンの妻」では、「池のはたの杉の木が、すっかり伐り払われて、何かこれから工事でもはじめられる土地みたいに、へんにむき出しの寒々とした感じで、昔とすっかり変わっていました」と描写されています。これは終戦直後の井の頭公園のありのままの様子でした。

時を遡って明治15(1882)年、江戸時代から水道として使われていた神田上水の水源涵養として、池の周囲に杉が千本植えられたという記録があります。
そして公園開設にあたっては、もともとあった植物を活かす方針が取られたため、この杉林は公園を象徴する風景となっていました。
ところが第二次世界大戦中にお棺の材として伐採されたため、風景が一変してしまっていたのでした。池畔に立つと、長い年月、桜が際立つ今の姿であったかのように感じられますが、実は何度も人の手が加えられ、風景は変貌してきたのです。

さてもう一篇、私がおすすめするのは「花火」です。井の頭公園と池を舞台に、終盤に物語が急展開します。ボートが重要な鍵となり、ミステリアスな結末にドキッとさせられます。

その他、「乞食学生」「貪婪禍」「水仙」「黄村先生言行録」「作家の手帖」「犯人」にも、井の頭公園が出てきます。暖かくなる前に読んで、春の陽差しの中で思い出しながらお散歩すれば、太宰作品の味わいも風景を見る視点も重層的にふくらむことでしょう。

※月刊『ほっとメーッセージ』は株式会社プロ・アクティブさんが毎月発行している情報誌です。2015年10月号から2016年9月号まで、合同会社いとへんの安田知代が井の頭公園について寄稿した記事を、こちらのブログに掲載しています。

安田 知代

安田 知代合同会社いとへん 共同代表

投稿者の過去記事

長年、フリーの編集者・ライターとして活動後、2012年から仲間とともに合同会社いとへんを運営。著書『井の頭公園*まるごとガイドブック』(2008年ぶんしん出版)、『懐かしの吉祥寺 昭和29・40年』(20011年ぶんしん出版)など。郷土史の小ネタを調べるのが大好き。目下、多摩の山々の歴史を探索中。2015年末に原田病を発症し、ステロイド投薬による免疫力の低い身体と仲良くする方法を模索する日々を過ごしている。

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