ほっとひと息、井の頭散歩|⑨昔の写真

月刊『ほっとメーッセージ 2016年6月号』 連載《ほっとひと息、井の頭散歩 EPISODE9》

井の頭公園は、映画やドラマのロケ地としてもよく使われています。
今回は、昭和29年に公園で撮影された映画のロケ風景をご紹介しながら、古い写真を紐解く魅力に触れてみます。

昔の風景写真の味わいは、

十人十色、心を揺り動かす妙薬です。

上の写真は、日活の映画『生きとし生けるもの』(原作・山本有三)のロケが井の頭公園で行われた時の様子を土屋恂さんが昭和29(1954)年10月に撮影され、『懐かしの吉祥寺 昭和29・40年』(ぶんしん出版2011年発行)に掲載したページです。

昭和2(1927)年生まれの土屋恂さんは、昭和9(1934)年から今に至るまで、公園から徒歩5分の場所にお住まいです。
カメラが趣味のお父様の手ほどきで、小学生の頃から写真を撮っては自宅でフィルムを現像し、印画紙に焼き付けていたそうですから筋金入りです。戦後は国鉄の鉄道技術研究所に勤めて研究職一筋。その傍らで写真も続け、昭和29年から30年にかけては毎日新聞社の「日本報道写真連盟」に登録し、休日に地元の話題をカメラに収めては投稿していました。この写真も、その時期の一枚です。

土屋さんは平成16(2004)年に『吉祥寺消えた街角』(河出書房新書)という写真集を出版され、私はその紹介記事を書くための取材にお訪ねしたのがご縁で『懐かしの吉祥寺 昭和29・40年』(ぶんしん出版2011年発行)を企画し、その編集・執筆の過程で大量の写真を見ながら昔のエピソードを聞かせていただくという至福の時を得ました。左の写真も、新聞記事に解説を添えて掲載しているので、機会があれば、お手に取っていただけたら嬉しいです。

この写真を見た時、私がまず感じたのは既視感でした。もちろんその場に居合わせたわけではありませんが、公園で何かしらのロケに遭遇することはたまにあります。だから「あ、こんな情景、見たことある」と感じるのでしょう。
近年では、大島弓子原作のコミックを映画化した『グーグーだって猫である』(2008年)のロケ期間に地元の知人友人の間で「ロケやってた!キョンキョン見た!」などと話題になりました。映画のロケ、しかも小泉今日子さんを目撃したとなると、いつもの風景が非日常のベールに包まれます。俄然、興奮しますよね。そんな感覚は、今も昔も同じに違いありません。

土屋さんの最初の写真集は武蔵野市内の老人施設に配布され、「言葉を発しなくなっていた高齢者が、写真を見ながら話すようになった」といった反響も数々あったそうです。古い写真は、記憶を蘇らせたり、街の歴史を伝えたり、異世代をつないだり、様々な力を発揮してくれるものです。

みなさんがお住まいの地域でも、古い写真を探してみてはいかがですか。家族や地域のお仲間と一緒に楽しめば、豊かな絆の育みにもなると思います。

『懐かしの吉祥寺 昭和29・40年』(ぶんしん出版2011年発行)

安田 知代

安田 知代合同会社いとへん 共同代表

投稿者の過去記事

長年、フリーの編集者・ライターとして活動後、2012年から仲間とともに合同会社いとへんを運営。著書『井の頭公園*まるごとガイドブック』(2008年ぶんしん出版)、『懐かしの吉祥寺 昭和29・40年』(20011年ぶんしん出版)など。郷土史の小ネタを調べるのが大好き。目下、多摩の山々の歴史を探索中。2015年末に原田病を発症し、ステロイド投薬による免疫力の低い身体と仲良くする方法を模索する日々を過ごしている。

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