ほっとひと息、井の頭散歩|⑩冷たかった天然池プール

月刊『ほっとメーッセージ 2016年7月号』 連載《ほっとひと息、井の頭散歩 EPISODE10》

今年も暑い季節がやってきますね。かんかん照りでも、水辺の木陰では体感温度は低いので、井の頭池の周辺は爽快です。今回は、昔の夏の池のお話です。散歩のお供にどうぞ。

湧き水と木陰のダブル冷却!

大正時代の天然池プールへようこそ。

井の頭恩賜公園開園の4年後の大正10(1921)年、池の東端の水門近くに天然池プールがオープンしました。
なんと東京市営公園プールの第一号で、昔の絵葉書を見ていただくと分かるように、木製の飛込み台が設置されていました。更衣場や児童用の徒歩池もあり、まだプールが珍しかった時代の夏の人気スポットになったそうです。芋洗い状態の混雑の写真も残っていて、その人気ぶりが容易に想像できます。

とはいえ池の湧き水は冷たく、真夏でも2〜3時間ほどしか公開されなかったと伝えられています。

3月号でご紹介した太宰治の『ヴィヨンの妻』の一節に描写されていた戦後の公園では「すっかり伐り払われて」いた杉ですが、当時はまだ池の畔ぎりぎりまでびっしりと生えていましたから、杉木立の冷房効果が公開時間の短縮に追い打ちをかけたことでしょう。
そもそも近年の酷暑と比べて大正時代の夏の気温は低かったので、なおさらです。

戦中戦後に子どもだった町の長老が、澄んだ水に藻がゆらめく池で夏の夜こっそりと泳いだエピソードも以前の号でご紹介しましたが、自然の「涼」が暮らしに活かされていた昔が、ちょっと羨ましく思われますね。身体が冷えすぎるほどにエアコンが効いた部屋を抜け出して、ときには木々が茂る水辺をそぞろ歩いてみてはいかがでしょうか。井の頭公園では池の周辺はもちろん、玉川上水沿いの木陰の小道もアスファルトの照り返しがなく爽快に散歩できます。土のままの地面に剪定された枝のチップが敷かれた道を歩けば、昔を旅する気分になれますよ。

※絵葉書は『井の頭公園*まるごとガイドブック』(初版)p112(改訂版)p114に掲載。資料提供:須田伸一さん。

※月刊『ほっとメーッセージ』は株式会社プロ・アクティブさんが毎月発行している情報誌です。2015年10月号から2016年9月号まで、合同会社いとへんの安田知代が井の頭公園について寄稿した記事を、こちらのブログに掲載しています。

安田 知代

安田 知代合同会社いとへん 共同代表

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長年、フリーの編集者・ライターとして活動後、2012年から仲間とともに合同会社いとへんを運営。著書『井の頭公園*まるごとガイドブック』(2008年ぶんしん出版)、『懐かしの吉祥寺 昭和29・40年』(20011年ぶんしん出版)など。郷土史の小ネタを調べるのが大好き。目下、多摩の山々の歴史を探索中。2015年末に原田病を発症し、ステロイド投薬による免疫力の低い身体と仲良くする方法を模索する日々を過ごしている。

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