お蚕さん日誌|6月12日|羽化の途中で死んでしまったプルミエちゃん

注※最終章「お蚕さん日誌|今日のアルバム」に、写真をまとめました。ビジュアル的にニョロニョロ系が苦手な方は、その前の章まで読んで、最終章はスルーすることをおすすめします。

今日はとても悲しい。
悲しくて悲しくて、やるせない。
なぜなら、羽化しかけた蚕(かいこ)が一匹、死んでしまったからだ。

今年飼っている蚕の中で、最初に繭(まゆ)をつくって蛹(さなぎ)になった子だった。
一番だから、プルミエ(フランス語で「一番」)と名付け、羽化するのを楽しみにしていたのに、死んでしまったのだ、そのプルミエちゃんが。

白い羽も出てたのに。

今朝、私が起きて最初に見たとき、プルミエちゃんは羽化を始めていた。
頭と胴の半分は蛹から出て、すでに白いカイコガになりかけていたのだ。
蛹から出たばかりのいかにも繊細な羽は、シワが伸びきらないまま神々しく白かった。
どきどきした。
初めて蚕を13匹飼った去年の夏は、どの蚕も朝起きてみるとすでに羽化していたから、その過程を見るのは初めてだったのだ。

箱の底で、プルミエちゃんは上向きになっていた(つまり顔と6本の脚をこちらに向けていた)。そして下半身はまだ、蛹の殻が付いたままだった。

下半身の殻を脱ごうとして、上半身左右に3本ずつある華奢な脚を一所懸命ばたつかせているプルミエちゃんを、私はiPhoneの動画で20秒くらいの長さで何度も撮った。
「今度こそ、殻がポロっと取れる瞬間を撮れるかな」という期待を募らせながら、何度も何度も撮影ボタンを押した。

プルミエちゃんは、上の4本の脚を勢いよくバタバタ動かし、一番下の2本の脚で、殻を押しのけようとしているようだった。
でも、殻は脱げなかった。

10分ほど見守りつつ動画を撮っていたのだが、朝食やらゴミ出しやら用事の多い朝の時間だけに、しばし目を離した。
そして1時間ほど経って見てみると、プルミエちゃんは上向けになったまま、動いていなかった。

でも、そのときはまだ生きていた。確かに生きていた。
動いていないけど、生きている生命感がにじみ出ていた。
だから私は、「疲れちゃったんだな。休んでるんだろう」と思ったのだった。

お昼頃にのぞいたときも、まだ生きていた。動いていないけど、まだ生きていた。
「がんばれ!もうちょっとだよ!」と声をかけてみたけど、プルミエちゃんは動かなかった。

ところが、夕方。
プルミエちゃんは腹ばいになっていた。上から箱をのぞくと、その背中には、もう生命のオーラがなかった。

なんだろう、この違いは。
さっきも動いていなかったのに、生きていると感じられた。なのに今ははっきりと死んでしまったことがわかるのだ。
たぶん、生きているものは動いていないように見えて、すごく微かに動いているのだと思う。死んでしまうと、その微かな動きの気配がなくなるのだ。

プルミエちゃんは、最後の力を振り絞って脚をばたばたとさせて寝返りをうったのだろうか。腹ばいのプルミエちゃんの顔は、見えない。

ああ、プルミエちゃん。どうして死んでしまったんだろう?

どうして? どうして?

去年13匹飼った蚕は、みんな羽化して美しい白いカイコガに成長した。
だから、みんなカイコガになるまで成長して当然なのだと、どこかで思い込んでいた。
でも、そうじゃなかった。

去年飼った13匹のうち、つがいが3組できて産卵した。
その卵から蚕が生まれた始めたのは、4月中旬だった。

たぶん、多いときは50匹ほどいたと思う。2〜3mmの小さな小さな黒っぽいニョロニョロたちが。
でも、その多くが途中で死んでしまった。たぶん、2令になったかならないかの頃に(蚕は脱皮しながら成長し、5令で8cmほどになったところで糸を吐いて繭をつくる)。

今日現在(2018年6月12日)残っているのは、
蛹になった3匹
糸を吐きはじめた1匹
たぶん3令の1匹
たぶん4令の1匹
だけだ。

そして、1番最初に羽化せんとしていたプルミエちゃんが死んでしまったのだ。
落胆が、大きい。
不意打ちだったから、自分でも驚くほど悲しい。

そして、「私の育て方が良くなかったのかもしれない」と思って気が塞ぐ。

「自分で飼育した蚕から生まれた子の代は、よい性質の蚕ばかりではありません。色や形、育つはやさもまちまちで、繭をつくるまで育ちきらないで死ぬものも、親の代に比べて多くなります。」と書いてある本もある。
だから、小さいまま、あるいは羽化の途中で死んでしまったのは、いちがいに私の育て方の問題ではなかったかもしれない。
去年の13匹は、三鷹市の生涯学習の講座で分けていただいた蚕だったから、丈夫だったのだろう。
とはいえ、採ってきた桑の葉に何かついていたのに気がつかなかったとか、触ってはいけない時期に私が指で掴んでしまったとか、何か差し障りのある行為をしてしまったかもしれない……と自責の念がこみあげてくる。

でも泣いてはいられない。
残っている蚕ちゃんたちがいる。希望をつなごう。

まだ桑の葉を与えてやらなくてはならない2匹もいるではないか。
気を取り直して散歩に行って、フレッシュな桑の葉を摘んでこよう。

お蚕さん日誌|今日のアルバム

卵からかえったお蚕さんたち。

最初は、ほんの3mmほどの長さ。

最初は、桑の葉を細く切って与えた。

5mmほどに成長したお蚕さん。

みんなが食べたあとは、桑の葉がレース状に。

緑色の桑の葉だけ食べているのに、どんどん白くふっくらとしていくミラクル。

5月31日、朝から仕事で出かけ、夕方帰ると、プルミエちゃんが箱の角で繭を作っていた!
 

繭をつくり始めた5月31日から11日目の6月11日、繭から蛹を出してみたところ。
もし、繭から出して観察しようなどという考えを私が持たず、そのままにしておいたら、プルミエちゃんは羽化できたのかもしれない?……などと悶々と考えてしまう。

安田 知代

安田 知代合同会社いとへん 共同代表

投稿者の過去記事

長年、フリーの編集者・ライターとして活動後、2012年から仲間とともに合同会社いとへんを運営。著書『井の頭公園*まるごとガイドブック』(2008年ぶんしん出版)、『懐かしの吉祥寺 昭和29・40年』(20011年ぶんしん出版)など。郷土史の小ネタを調べるのが大好き。目下、多摩の山々の歴史を探索中。2015年末に原田病を発症し、ステロイド投薬による免疫力の低い身体と仲良くする方法を模索する日々を過ごしている。

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