企業理念づくりに、編集のテクニックを役立てる

昨秋、2018年10月から、とある会社さんの企業理念の編集をお手伝いしています。

ご依頼は、こんな経緯からでした。

その会社さんでは、業種の異なる3事業所から数名ずつの代表者が参加するワーキングチームを組織し、約1年間、コンサルティングの先生のご指導のもとで企業理念について学んできました。
そして自分たちで自社の理念をまとめるために意見を出し合ってきましたが、最終段階で思うような表現が見つからず、堂々巡りになってしまったというのです。

ご依頼時には、それまでにワーキングチームのみなさんがメモした重要項目や理念体系案などの資料をまとめて渡されました。
数々のキーワードと、みなさんの思いが詰まった資料です。

それを元に、理念、使命、行動指針を編集し、ご提案することになりました。

編集の基礎は、整理整頓。

編集するときに重要なのは、まず「要素」「機能」「属性」「らしさ」を整理することです。
そのコツを私は、松岡正剛先生の『イシス編集学校』で学びました。

ぴったりとした言葉が見つからずにモヤモヤする。
どう表現していいのかわからなくて思考がグルグルする。
そんなときは、「要素」「機能」「属性」「らしさ」を整理して、表現したいこととキーワードを結びつけていくと、どの言葉が重要なのかが見えてきて、表現するうえでのフックも得られます。
その技は、文章を的確にまとめたいときにも、商品のネーミングや広告のキャッチコピーを考えるときにも、プロジェクトを企画するときにも役立ちます。

今回、企業理念を編集するにあたっても、まずはその手順で情報を整理していきました。

ワーキングチームの資料には、下のようなキーワードが出されていました。

100年の歴史
新しい価値の創造
真に役立つソリューション
事業を通じて社会に貢献
人との出会いを大切にする
出会う人を笑顔にする
夢を大切にする
挑戦しつづける
失敗してもいい
自分で考え行動する
etc.

この会社さんは、1901年の創業から現在まで、時代の変化に沿って新規事業を開拓し、多角化を進めながら規模を拡大してきました。その気風と姿勢が感じ取れるキーワードの数々です。
ただ、理念を体系づける骨格や、この会社さんならではの決定的な個性は、キーワードを並べるだけでは見えてきません。

そこでまずは、これらのキーワードを「要素」「機能」「属性」「らしさ」で整理しながら、「会社 ↔ ︎社会」、「思い ↔ ︎行動」という2軸でマッピングしてみることにしました。
すると、理念と使命を確定しいくうえでの言葉の関係を捉えることができました。

隠されたキーワードが、視野を広げるポイントに。

そしてもう一つ気づいた重要なポイントは、地域的な属性を表すキーワードがそこに含まれていないことでした。

社名に「横浜」という地名が含まれている会社さんなので、社員のみなさんにはあまりに自明すぎて、キーワードには上がってこなかったのでしょう。

海に面した地理的条件、幕末に外国に向けて開港された歴史的背景、海外の文化や情報に敏感な「ハマっ子」の気風など、「横浜」という地名が私たちにふくらませてくれるイメージはとても豊かです。

そんな分析と気づきをもとに、「横浜」が与える独特なイメージを、その会社さん独自の姿勢に重ね、理念と使命の言葉を選び、理念体系としてのバランスをとって編集し、ご提案しました。

デザイナーさんが、そのイメージをさらに印象づけるように、マリンブルーの曲線をあしらって仕上げてくれました。ビジュアルの表現力が加わって、さらに「らしさ」が強調されました。

社長さんにも、幹部の方々にも、ワーキングチームのみなさんにもご好評をいただき、2019年4月のお披露目に向けて、会社案内や社内浸透ツールの制作を進めています。

この仕事を通して、「私は言葉の海を泳ぐのが好きなのだなぁ」とあらためて感じています。
そして、好きなことを通じて人様のお役に立てることは、とてもありがたく幸せなことだと思います。

冒頭のアイキャッチ画像は、横浜開港資料館の入館チケットです。
今回の仕事をご依頼いただいた打ち合わせの帰りに立ち寄った資料館が、地域のイメージの広がりに気づかせてくれました。

安田 知代

安田 知代合同会社いとへん 共同代表

投稿者の過去記事

長年、フリーの編集者・ライターとして活動後、2012年から仲間とともに合同会社いとへんを運営。著書『井の頭公園*まるごとガイドブック』(2008年ぶんしん出版)、『懐かしの吉祥寺 昭和29・40年』(20011年ぶんしん出版)など。郷土史の小ネタを調べるのが大好き。目下、多摩の山々の歴史を探索中。2015年末に原田病を発症し、ステロイド投薬による免疫力の低い身体と仲良くする方法を模索する日々を過ごしている。

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